函館地方裁判所 昭和45年(ワ)84号 判決 1970年9月02日
原告
長谷川卓蔵
被告
函館市
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1 請求の趣旨
被告は原告に対し、金一〇五万四、一六〇円およびこれに対する昭和四四年四月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 仮執行の宣言
二、被告
主文と同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 原告は、昭和四三年一月一日午後零時四〇分ごろ、軽四輪貨物自動車(以下原告車という。)を運転し、函館市深堀町二〇五番地先道路を深堀町方面から花園町方向へ走行中、同所付近において、反対方向から進行してきた訴外浜坂正吉の運転する市営バス(函二あ〇二七四号)(以下被告車という。)と衝突事故を起し、右事故により右大腿部複雑骨折、頭部裂傷の傷害を受け昭和四三年一月一日から同年六月八日までおよび同年一〇月七日から同月一九日まで合計一七三日間の入院加療を受け、退院後も同年六月一七日から同年一〇月六日および同月二〇日から同四四年一月二八日までの通院加療(内治療実日数二九日)を受けたが、全治するに至らず右膝関節屈曲制限等の後遺症(労働者災害補償保険級別第九級に該当)が残った。
2 被告は本件自動車を所有し、自己のために運行の用に供していたものである。
3 原告は右衝突事故により次の損害を受けた。
イ 治療費 金九、五六〇円
ロ 付添費四ケ月分 金六万一、六〇〇円
ハ 診断書作成料 金一、〇〇〇円
ニ 本件傷害および後遺症による精神的苦痛に対する慰謝料 金九八万二、〇〇〇円
以上合計 金一〇五万四、一六〇円
4 よつて原告は被告に対し、自動車損害賠償保障法第三条に基づき金一〇五万四、一六〇円およびこれに対する弁済期の経過した後である昭和四四年四月八日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因事実に対する答弁
請求原因1の事実中、原告主張どおりの事故が発生し原告が傷害を受けたことは認めるが、傷害の部位、程度、加療日数、後遺症が残つたとの事実は不知。
同2の事実は認める。
同3の事実は不知。
三、抗弁
1 原告主張の日時頃訴外浜坂正吉は、被告車を運転し、本件道路を走行中、センターラインを越えて、自車進行路を進んでくる原告車を発見し、危険を感じ被告車を道路左端に停車させ警笛を鳴らし続けたが、原告は酩酊のためか前方を注視せずセンターラインを越えてそのまま原告車を進行させ、前記停車中の被告車に正面衝突させたもので、本件事故はもつぱら原告の過失に基づくものである。
2 被告車には本件事故当時構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。
四、抗弁事実に対する答弁
1 抗弁1の事実のうち、本件事故当時、被告車が警笛を鳴らして停車していたこと、原告が酒に酔つて前方を注視せずセンターラインを越えて原告車を進行させたとの事実は否認する。
2 抗弁2の事実は不知。
第三、〔証拠関係略〕
理由
一、原告主張の日時場所において原告の運転する自動車と訴外浜坂正吉の運転するバスとが衝突事故を起しその事故により原告が傷害を受けたことおよび請求原因2の事実については、当事者間に争いがない。
二、そこで被告主張の免責の抗弁について判断する。
〔証拠略〕を綜合すると次の事実が認められる。
1 原告は昭和四三年一月一日午前一〇時頃、同人の勤務先である函館市宇賀浦町二一番地の函館スバル自動車株式会社において開かれた新車発表会に出席し、同日一一時頃から一一時三〇分頃までの間に相当量(事故直後において呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有)の日本酒を飲酒し、同日一二時三〇分頃原告車を運転して帰路についたが、本件事故現場付近にさしかかつた頃、右アルコールの影響によつて前方注視、ハンドル操作等を適正に行いえない状態となり事故現場の西方約一二〇メートル付近から原告車を道路の右側部分を進行させるに至つた。
2 訴外浜坂正吉は同時刻頃被告車を運転して事故現場の東方七五メートル付近にさしかかつた際、約二〇〇メートル前方の道路右側部分を進行してくる原告車を発見したが、当初は道路状況が悪いため道路右側を進行しているもので、両車が接近すれば原告車において左方へ避けるものと考え、同車に注意しながらそのまま進行を続けたところ、事故現場直前に至つても同車が避譲しないので危険を感じ、被告車を道路左端に寄せるとともに停車措置をとり警笛を吹鳴したが、原告車はそのまま被告車の正面やや右寄部分に衝突した。
以上の事実を認めることができ、右認定に反する〔証拠略〕に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右事実によれば、本件事故はもつぱら原告において飲酒によるアルコールの影響でハンドル、ブレーキ等の操作を適正に行いえない状況にあつたのに原告車を運転し、かつ自動車運転中前方注視を怠り、自車を道路右側部分を進行させた過失に起因するものというべきで、本件事故直前の状況において、訴外浜坂に原告が酩酊運転をしていることを予測し、それに応じた事故発生回避のための措置をとることを期待するのは不可能である。したがつて、被告および運転者は被告車の運行に関し、注意を怠らなかつたものということができる。
そして、〔証拠略〕によれば、本件事故当時被告車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたものと認められ、右認定に反する証拠はない。
三、以上のとおりであつて、被告は自動車損害賠償保障法第三条但書の規定する免責事由をすべて立証したことになるから、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき責を負わないものというべきである。したがつて、原告が受けた損害等の判断をするまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 河村直樹)